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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和26年(う)152号 判決

控訴人 被告人 島田衛 外一三名

弁護人 岩上勇二

検察官 小西茂関与

主文

本件控訴は何れも之を棄却する。

理由

弁護人岩上勇二控訴趣意

同弁護人提出控訴趣意書記載の通りであるが

原判決には所謂証人東知吉、水滝正義、井口正雄の各証人尋問調書謄本を証拠として挙示引用してあつて東知吉、水滝正義は本件の被告人であり又原判決の認定及記録に依れば右井口正雄は本件被告人等に対し原判示の饗応を為したものであつて右三名は本件犯罪の共同者であるけれども所謂本来共犯者である或る者が捜査の段階に於て共犯者中の他の者の関係に於て被疑者以外の者としての取扱いを受ける場合のあることは屡々事例の示すところであるから其のような場合本来の共犯者が他の共犯者の事件につき被疑者以外の者として取扱われ刑事訴訟法第二百二十七条の証人尋問の対象となる場合のあることは予想するに難くない。尤も其の者が当該犯罪の嫌疑に依り将来起訴せらるべき虞れありと思料せられる場合にこれに対し右法条を用い証人として尋問手続を求むることは極めて警戒すべきことであることは謂うまでもないことであるが其の者が証言を拒否せず証人として供述した場合には其の尋問調書は他の証拠法則上の諸条件に適合する限り他の共犯者の被告事件につき証拠となし得るものであることは因より当然である。唯該法条に依り証人として尋問を受けたものが後日に至り他の共犯者と共に起訴せられてこれと共同被告人として同一公判手続の下に審判せられる場合には刑事訴訟法第三百二十一条第一項第一号の規定との関係を考慮する必要があるのであるが本件に於ては原審検察官は前記東知吉、水滝正義の証人尋問調書謄本を他の共同被告人等に対する証拠として提出したものであるから原判決も其の趣旨にて之を採用したものと解し得られ原審公判に於て被告人である右東知吉、水滝正義は夫々前示同人等の証人尋問調書謄本に関する弁護人の他の共同被告人全部のための反対尋問に十分に答え又裁判官の尋問に応じて各其の尋問調書謄本の供述内容及尋問の経過事情につき詳細に供述し尚他の共同被告人の総てに反対尋問の機会が与えられたものであることは原審公判調書に依り明かであるから右のような手続を経て所論東知吉、水滝正義の本件証人尋問調書謄本を証拠として採用した原審の措置を目して直ちに不当であると謂うことはできない。又前示井口正雄は本件とは別に起訴せられたものであつて本件については原審公判廷に於て証人として尋問を受けたものであるから同人の前記証人尋問調書謄本は単に同人が共犯者であるとの理由のみによつて其の証拠能力を否定せらるべきものではない。本件記録を精査すれば前示三名の証人尋問調書謄本を事実認定の一資料に供したことは相当であると認められるから此の点に関する論旨は理由がない。

又弁護人は原判決援用の本件被告人等の検察官又は検察事務取扱に対する供述調書は何れも強制、脅迫に基くものであると主張するけれども本件に於ては該弁護人の主張を確認するに足る証左なく記録に徴すれば原審は此の点につき特に審理を遂げた上挙示の証拠を事実認定の資料に供したものであつて原審の該措置は相当であると認められるから此の点の論旨も採用できない。

次に原判決援用の証拠に依れば本件の饗応は清酒四升及金七十円相当の肴であつたことが認められ当時清酒四升の販売価格は合計千五百八十圓(二級一升の配給価格三百九十五円として)であり右饗応の代価は合計千六百五十円であつて本件饗応の同席者は被告人等を含め十五、六名であるから原判決が被告人等の本件接待を受けた饗応費を一人当百円相当と認定したことは洵に相当である。

原判決摘示の証拠に依れば原判示事実は其の証明十分であつて本件各般の事情に照せば被告人等に対する原審刑の量定も亦相当であるから本件控訴は何れも理由がないものと認め刑事訴訟法第三百九十六条に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)

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